厚木上教会

2025.05.25 牧師 中野通彦 「こう祈りなさい」

マタイによる福音書6章1-15節

1.スイートな時間
 さきほど歌いました讃美歌21 495番「しずけき祈りの」は1954年版讃美歌の310番でしたが、いくつか歌詞を手直しして讃美歌21に再録されたものです。この作詞者は、楽譜の左上に書かれていますが、ウィリアム・ウォルフォードという人です。この人は19世紀前半にイギリスで伝道をした目の不自由な説教者でした。聖書の言葉をほとんど覚えていて、説教の時はそれを活用しました。この歌詞から、目の不自由なウォルフォードが、どんなに祈りの時を楽しみにしていたかがわかります。
 しずけき祈りの ときはいとたのし
 なやみある世より われを呼びいだし、
 み神のもとへと すべての願いを
 たずさえいたりて つぶさに告げしむ。
誰もいない部屋で、ひとり神様に、浮世の悩みをすべて願いとして吐露していく。英語の題は、「Sweet Hour of Prayer」(祈りの甘い時間)ですが、神様に話しかける時間が、スイートな時間なのです。ウォルフォードの神様に対する深い信頼を感じます。みなさんは、お祈りの時をどのように過ごしているでしょうか。わたしはボンヘッファーの「1日1章」という本を毎朝読んでいます。わたしは密室のお祈りを守っていますが、誰もいないところで、たったひとりで神様にお祈りをささげることは、わたしのスイートな時間となっています。 本日は祈りに関して、わたしたちが与えられている二つの恵みのことを申し上げたいと思います。

2.祈る相手が与えられている
 一つ目の恵みは、わたしたちは祈る相手を与えられているという事です。
本日の聖書のテキスト、マタイによる福音書6章5節~には、「祈るときにも、あなたがたは偽善者のようであってはならない。偽善者たちは、人に見てもらおうと、会堂や大通りの角に立って祈りたがる。はっきり言っておく。彼らは既に報いを受けている。だからあなたが祈るときは、奥まった自分の部屋に入って戸を閉め、隠れたところにおられるあなたの父に祈りなさい。そうすれば、隠れたことを見ておられるあなたの父が報いてくださる。」とあります。このイエス様の言葉は、密室の祈りの根拠になっています。 わたしたちは、「祈る」時、祈る相手がいて初めて、「祈る」ことができるのではないでしょうか。ですから、神様を信じる人は祈る相手がいる人です。わたしは、わたしたち信仰者が祈る相手を持っているということだけとっても、大変に幸せで幸運ななことであると思います。
 ヨブ記という聖書の文書の中で、不幸のどん底におとされたヨブが、神様に対して繰り返し、不平を述べていきます。この不平は「文句」のようにも聞こえるのですが、この不満を並べ立てられるということ自体が、信仰者の幸せなのではないかと思います。ヨブのように「不平」を神様に言うことも許されている。わたしたちの不平すら、神様に向かって言う時には祈りになります。そのことも恵みです。
このように、密室での祈りは、信仰者にとって神様に語りかける特権を行使する時間であり、スイート・アワーとなるのです。
 しかし、いっぽうイエス様はこのようにも言っています。
(18章19節)「また、はっきり言っておくが、どんな願い事であれ、あなたがたのうち二人が地上で心を一つにして求めるなら、わたしの天の父はそれをかなえてくださる。」
この言葉は、奥まったところで祈ることを求めることと矛盾しているようにみえます。これは、密室の祈りが勧められているいっぽう、信仰者が心を合わせて祈ることの大切さを言われているのです。今朝、礼拝でも、公同の祈りがささげられました。また、祈祷会での祈りについてもそうですが、祈りが共同体の祈りとしてこころをひとつにして捧げられるとき、神様は特別な祈りとして聴いて下さいます。それは教会はキリストの体だからです。わたしたち一人一人がキリストのえだとしてつながっています。共同体の祈りは幹全体を支える栄養のような働きをします。そこで、わたしたちは教会の一部分として完成に向かって成長していくという希望も与えられるのです。

3.何を祈るのか
 次に、私たちは「祈る言葉」を与えられている恵みについて申し上げます。6章の7節~には、
「また、あなたがたが祈るときは、異邦人のようにくどくどと述べてはならない。異邦人は、言葉が多ければ、聞き入れられると思い込んでいる。彼らのまねをしてはならない。あなたがたの父は、願う前から、あなたがたに必要なものをご存じなのだ。」
「どんな願い事であれ」祈り求めるように言っておきながら、くどくどと祈るな、というのはどういうことでしょうか。異邦人の祈りとはなんでしょうか。異邦人の祈りは、言葉が多く、その形式をもって聞き入れられると考えたのですが、わたしたちの神様は形式ではなく、関係性の中での祈りであるというのです。父である神様と私たちの信頼の中での祈りです。「あなたがたの父は、あなたがたに必要なものをご存じ」なのはどうしてかというと、神様は私たちの「父」であり、「母」であるからです。わたしたちは、子どもが父親や母親に話しかけるように、祈ることが許されているのです。親ならば、子どもがなにか願い事をいうときそれに耳を傾けるでしょう。親は、子どもの願いを聞き、そして一番ふさわしい形で願いに応えようと努力をします。ここに親と子の信頼関係があるのです。そこには、祈りの形式や長さという事はいっさい関係がないのです。
そしてなによりも驚くべきことは、わたし達には何を祈ったら良いのか、その祈りまで与えられているということです。それは、イエス様が「こう祈りなさい」と言われた「主の祈り」です。主の祈りでは、「天におられるわたしたちの父よ」と、神様をお父さんと呼ぶことが許されてます。
「御名があがめられますように。/御国が来ますように。/御心が行われますように、天におけるよう地の上にも」
わたしたちが第一に望むことは神様の御名があがめられることです。
そして、神の国が一刻も早くこの地上に実現することです。
神の国とはどのようなものなのか。ヨハネの黙示録21:3以下、
「神は自ら人と共にいて、その神となり、彼らの涙をことごとくぬぐい取ってくださる。もはや死はなく、もはや悲しみも嘆きも労苦もない。」
ヨハネは新しく実現される神の国をこのように表しています。死も、苦しみも、悲しみも無い世界が、わたし達の世界に来る希望をわたし達は持つことができるのです。わたしたちが望むことはこの「神の国」が実現することです。
続いて、「わたしたちに必要な糧を今日与えてください。」
わたしたちに必要なのは今日を生きるための一日分の糧だけです。明日のことは思い煩わなくても良いのです。わたしたちは今日という一日を精一杯生きるだけで良いのです。
「わたしたちの負い目を赦してください、わたしたちも自分に負い目のある人を赦しましたように」
わたしたちは主の十字架によって赦されている存在ですが、それでも様々な負い目によって苦しんでいます。負い目とは、自分を受け入れることができない深い心の葛藤です。この心の葛藤から解放されることを願うのです。神様がわたしたちを赦し、愛していることを確信させて下さい。もし、わたしたちに負い目を持っている人がいると分かったらすぐさまその人を赦します。わたしたちの世界には神の国はまだ実現しませんが、神様の赦しのうちに生きていきたい、と願うのです。
「わたしたちを誘惑に遭わせず、悪い者から救ってください」
誘惑とは、わたしたちが神様から離れてしまうきっかけとなることがらです。神様から離れてしまうとは、本当の命から遠ざかってしまうことです。誘惑にあうことなく、神様としっかり結びついて、今日の一日を過ごしたいと願います。
以上がイエス様が教えて下さった「主の祈り」です。
この「主の祈り」を、祈りのお手本と考えるむきもありますが、私は「主の祈り」はイエス様がわたし達に与えて下さった「慰め」ではないかと考えています。イエス様が与えてくださった「主の祈り」を唱えるだけで、わたし達はイエス様の恵みの内にいれられて、慰めと希望が与えられるのです。

4.祈りという恵み
 今日は聖書のテキストにしたがって、祈りについて考えました。このなかで二つの恵みについて申し上げました。
また、わたしたちが自由に祈ることも赦されていますが、その自由な祈りも、実は、共におられるイエス様がわたしたちに与えてくださっているのです。イエス様がいなければ、わたしたちは祈ることはできません。つまり、祈りそのものがわたし達に与えられるイエス様の贈り物、恵みとなっているのです。この恵みを味わいいつつ、この週も歩んでまいりましょう。 神様 今日も御言葉をありがとうございました。今朝はマタイによる福音書6章から、主イエスに教えていただいた「主の祈り」から、祈りについて考えることができました。主よ、どうか弱いわたしたちに祈る力をお与えください。  今日は聖書のテキストにしたがって、祈りについて考えました。このなかで二つの恵みについて申し上げました。 また、わたしたちが自由に祈ることも赦されていますが、その自由な祈りも、実は、共におられるイエス様がわたしたちに与えてくださっているのです。イエス様がいなければ、わたしたちは祈ることはできません。つまり、祈りそのものがわたし達に与えられるイエス様の贈り物、恵みとなっているのです。この恵みを味わいいつつ、この週も歩んでまいりましょう。

神様
 今日も御言葉をありがとうございました。今朝はマタイによる福音書6章から、主イエスに教えていただいた「主の祈り」から、祈りについて考えることができました。主よ、どうか弱いわたしたちに祈る力をお与えください。